ぷくぷくの社会を見つめ直すⅢ

山びこ学校のあの江口少年は…

 無着成恭の「山びこ学校」について調べていました。戦後初期の教育実践として、有名すぎるほどの実践ですが、学生時代に恩師の大槻健がこの実践を詳細に説明してくれたことを覚えています。
 「山びこ学校」の数ある作文の中で、特に有名なものが、「母の死とその後」を書いた江口江一の作品です。貧しさや悲しみに負けず前向きに生きようとする江口少年の生活記録の作文は、今でも私たちの心を打ちます。
 江口少年はその後、どのような人生を歩んだのか。それについて調査したのが、佐野眞一です。『遠い「山びこ」無着成恭と教え子たちの40年』(新潮文庫)に、その調査内容がノンフィクションとして記されています。
 その記録では、江口少年は、「山びこ学校」が有名になっても、決してそれに浮かれることなく、ひたすら森林組合の仕事に全力を傾け、県下に誇る模範組合になるまで尽力したようです。そして、生活にも余裕が生まれ、家族を持ち、これからというところにくも膜下出血で倒れ、やがて亡くなったようです。31歳の若さでした。残されたのは、6歳の息子と生まれたばかりの女の子でした。江一の父がそうであったように、江一自身も幼子と妻を残して亡くなったのです。
 江一の息子は、山元中学校を卒業後、県下一の名門山形東高校に進み、山形大学理学部数理学科にストレートで合格します。そのときに、江口江一とゆかりの深かった関係者が山形市内の教育会館に集まり、息子の智を励ます会を開きました。そしてその場で遺児の息子智に20万円の奨学金を渡したのだそうです。そのお金は、葬儀の時に集めていたカンパだったのです。その日のために、大切に保管していたようです。
 遺児智はその後、入社が内定していたコンピューター会社への就職を蹴り、物理と数学の教職の道に進みました。その進路変更は、ものよりも人に影響を与える仕事につきたいという思い。それは無着が江一に与えた影響であり、遠く、その遺児の進路にも及んでいたと佐野は述べています。智は高校の先生になっていくのです。
 私は、上記の事実に深く感動しました。特に江一の関係者がカンパによる奨学金を準備していたシーンには涙が出そうでした。
 江一の母は病臥に伏し亡くなる前に、地域の人たちが自分の家の畑仕事を手伝ってくれたことを話しをすると、これまでにないぐらいの笑顔で喜んでくれたと書いていました。心臓が悪い母はいつも暗くやつれた顔をしていたけれども、この時の母の顔に江一は驚いたそうです。そして、江一が亡くなった後に、息子の進路に対してのこの奨学金。江一もおそらくあの世でにこやかな笑顔だったのではないかと思います。そんな、人間と人間の心のあたたかいつながりを感じることができ、私はひとり涙を浮かべてしまったのでした。
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by shin-pukupuku | 2016-03-18 10:01 | 教育関係 | Comments(0)

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