もぐもぐマガジン 9号

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判決書事例で学ぶ安全教育 第9回 
 ~熱中症への教師対応の学びのために(1)~  
        
                   
1.はじめに

 今月号から2回にわたって熱中症による学校事故への教師対応について学んでいきたいと思います。
 熱中症に関わる裁判の判決書を調査しましたが、小学校での裁判例は見あたりませんでした。小学生が熱中症で倒れたというニュースはときどき耳にしますが、小学校の先生方はきちんと対応しているのでしょうか。判決書がないということは、熱中症の事故で小学校では裁判による紛争がおこっていないということですので、喜ばしいことだと思います。
 しかし、中学校や高校においては、熱中症の事故に関わる裁判の判決書はいくつも見られます。それらは、部活動中の熱中症がほとんどです。
 小学校の教師であっても、これらの判決書から対応を学ぶことはできると思います。小学校の教師は部活動を持つことはありませんが、体育の授業や運動会などに関わっていることを考えますと、むしろほとんどの先生方が学ぶべきことだと思われます。
 第1回目は「高校バスケ部で起こった熱中症」を取り上げます。
 この事件では、高校の部活動監督であった教師Aが、熱中症対策をとらなかったために女子部員Bが練習直後に熱中症によって倒れてしまいます。ところが、適切な処置をとらず、病院に搬送しなかったために、部員Bは健忘の症状が生じてしまいます。そして、解離性健忘のために高校における学習の記憶を失い、学習塾を利用して再度学習し直すことになりました。
 教師Aは、熱中症予防及び対処に関する安全配慮義務違反を問われました。また、本判決は、事故後解離性健忘のため再度学習し直した費用を損害として認めた事例でもあります。
 いったい、学校教師は熱中症予防および事故後にどのような対応をとったらよいのでしょうか。
 大分地方裁判所平成20年3月31日の判決書事例を取り上げます。

2.事件の概要
 事件当日は、気温38度、湿度80パーセントに上っていたが、練習は午前・午後ともにアリーナで行われた。
 午後の練習は午後1時50分から始まり、基礎練習を中心としたメニューが行われていたが、午後3時45分から午後4時13分まで休憩が設けられた。この休憩中、部員らは氷菓子を食べ、中には氷菓子の容器に水を入れて飲む者もいたが、水分の摂り過ぎで教師Aから怒られることを恐れ、氷菓子以外に水分を摂取しない部員も多くいた。教師Aは部員らに対して、水分を摂り過ぎると体力の消耗が早くなるとか、血液が薄くなり貧血になりやすいなどと説明し、多量に汗をかいている部員に対して、水分の摂り過ぎが原因であるとして厳しく叱りつけるようになった。このため、多くの部員は萎縮して、水分補給を控えるようになっていた。
 休憩後、ゲーム形式の練習などが行われ、午後5時25分に全体での練習が終了した。
 部員Bは、練習終了後、他の部員にトイレに行くと告げてコートを離れたが、間もなく、トイレの前で倒れているところを他の部員に発見された また、同じころ、部員のJも体調不良を訴えていた。
 部員Bが倒れたことを聞いた副キャプテンで健康係のGは、そのことをアシスタントコーチのKに伝え、同人が教師Aに連絡し、その指示を仰いだ。この時、教師Aは、サプリメントを砕いてスポーツドリンクに混ぜて飲ませるように指示したが、部員Bは意識が朦朧としており、全く飲むことができない状態であった。また、他の部員は、部員Bに扇風機で風を当て、額に氷のうを当てるなどの処置をしていた。
 教師Aは、部員Bの意識の有無を確認するために、その頬を平手で叩いたところ、部員Bは振り向いたものの、朦朧として話のできる状況ではなかった。そこで、教師Aが部員Bの額に手を当てて体温を確認したところ、高熱や異常な発汗などの症状までは認められなかった。
 こうした部員Bの状態を見た教師Aは、その日の練習を頑張りすぎたための疲労が原因であろうと考え、午後6時30分ころ、保護者に電話し、練習後体調が悪くなったので寮で休養させることを伝え、部員Bを自動車に乗せて寮まで送り、寮で同室のGにその後の介抱を指示した。
 翌日朝、部員Bは、目が覚めても、前日の出来事、現在いる場所・日時、付添の部員に関する記憶がなく、同部員に対して、「ここはどこですか。」と尋ねた。部員Bは、E高校に在校していることも、バスケットボールをしていることも分からず、したがって、同女子寮にいる理由も分からなかった。そこで、同部員が先輩部員に連絡し、同先輩部員が部員Bに、何人かの人の名前を挙げて、この人は知っているかと質問したところ、小学生からの同級生だけは知っていたが、それ以外の人の名前は分からなかった。
 教師Aは同室の部員Gから、部員Bが周囲の状況を理解していない感じであり様子がおかしいとの報告を受けたため、自ら寮に赴き、部員Bの様子を確認し、病院へ連れて行くこととした。病院に連れて行き、診察を依頼したが、その後アシスタントコーチのKが到着したため、自分は学校に戻った。
 病院での診察の際、部員Bは、倒れた時の記憶が抜けていること、片麻痺があること、全身が割れるように痛いことなどを訴えた。また、同時に診察を受けたJが、原告Aには意識があるものの反応に乏しいこと、昨日からの記憶が抜けていることなどを付け加えた。
医師は、記憶の欠落が脱水症によるものか、倒れた際の頭部打撲によるものかが不明であったことから、付添いのKに対して、保護者に連絡した上で専門医を受診することを勧めた。
 ところが、教師Aは、診察に付き添ったKと3年生部員から診断結果を聞いたにもかかわらず、保護者への電話では、病院に連れて行ったが安静にしていれば大丈夫なので寮で静養させる旨を伝えた。そして、部員Bを寮に戻し、すぐに専門医に受診させようとはしなかった。
 また、翌日も、教師Aは、朝寝ている部員Bの頬を叩いて起こし、「生きてるか。」と問いかけて安否を確かめただけであった。その後、部員Bが自ら保護者に電話することで保護者は始めて事態の重大さを知り、専門医のM脳神経外科に受診させることができた。
Bは、本件事故により、心的外傷を原因とする解離性健忘となった。

3.判決の内容

 判決結果は次の通りでした。なお、原告は部員Bと保護者、被告は学校法人とバスケ部監督の教師Aです。

 主文
 1 被告らは、原告に対し、連帯して、360万4932円及びこれに対する平成18年8月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2 原告のその余の請求並びに保護者の請求をいずれも棄却する。
 3 訴訟費用はこれを5分し、その2を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
 4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

4.学校・教師の対応

 判決では、バスケ部監督Aの過失が認定されています。いったいAのどこに問題があったのでしょうか。
 裁判官はその理由を次のように説明します。

「監督Aは、高校の教員であり、女子バスケットボール部の監督であるから、部活の実施により、部員の生命、身体に危険が及ばないように配慮し、部員に何らかの異常を発見した場合には、その容態を確認し、応急処置を執り、必要に応じて医療機関に搬送すべき一般的な注意義務(安全配慮義務)を負っているというべきである。事故当時、既に熱中症の予防策や発生時の対処方法について、財団法人日本体育協会による熱中症ガイドブックも公刊されており、熱中症の危険性とその予防対策の重要性は、体育教育関係者にとっては当然身に付けておくべき必須の知識であったと認められること、バスケットボールは走ることを基本とする運動量の多い球技であり、特に夏季の練習においては体育館内の温度が上昇するため熱中症に対する配慮が必要となること、熱中症ガイドブックによれば、乾球温度が35度以上となる場合には原則として運動を中止すべきとされていることなどを考慮すると、監督Aとしては、本件事故当時、部員が暑さと運動によって熱中症を発症することのないよう、気温が35度以上である間は、基本的には練習を控え、仮に練習を行う場合であっても、その内容を比較的軽微な運動にとどめ、練習中は適宜休憩を設けた上で、部員らに対して十分に水分及び塩分を補給することを指導するとともに、部員らの体調を把握して、熱中症を疑わせる症状がみられた場合には、直ちに涼しい場所で安静にさせて、水分を補給したり体を冷やすなどの応急処置を採り、水分補給ができない場合には医療機関に搬送すべき具体的な注意義務を負っていたというべきである。

 裁判官の判断では、学校教師が熱中症に対してとるべき対応を詳細に説明してくれています。
 

5.何を学ぶべきなのか。
 本判決書で登場しているのが、「財団法人日本体育協会による熱中症ガイドブック」です。まずは、このガイドブックを読み、熱中症とはどのような症状であり、何に気をつけるのかを学ぶべきでしょう。
 そのガイドブックでは熱中症の病型の説明として次のように記されています。

 「(ア) 熱失神:皮膚血管の拡張による循環不全で、脈が速くて弱く、呼吸回数の増加、顔面そう白、血圧低下、一過性の意識喪失がおこる。
  (イ) 熱疲労:脱水や塩分の不足による症状で、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などがみられる。
  (ウ) 熱けいれん:大量に汗をかき水だけを補給して血液の塩分濃度が低下した時に、足、腕、腹部の筋肉に痛みやけいれんがおこる。
  (エ) 熱射病:体温の上昇のため中枢機能に異常をきたした状態で意識障害(うわごとや、呼んでも答えないなど)がおこり死亡率が高い。」

 バスケ部監督Aは、上記の症状を把握しておく必要がありました。熱中症では意識喪失や意識障害がおこるわけですから。
 
 また、熱中症ガイドブックには、熱中症予防の運動指針として次のように記されています。
 「乾球温度35度以上の場合には、原則として運動を中止すること」
 「乾球温度31度以上の場合には、熱中症の危険が高いので激しい運動や持久走など熱負荷の大きい運動は避け、運動する場合には積極的に休息をとり水分補給を行うこと」

 上記のことをバスケ部監督は知っておくべきでした。35度を超えていたのにもかかわらず、長時間にわたって部活動は行われ、しかも水分補給に対して間違った認識で摂取をできるだけとらないように指導していたわけです。責任を問われたのは言うまでもありません。

 最近の判決(平成28年12月22日大分地方裁判所)では、熱中症で死亡した被害生徒の保護者が、剣道部の顧問に教師個人の賠償を請求した事件において、教師個人の賠償を認める判決が出ています(ただし、現在高裁で係争中)。熱中症での対応で過失があると、教師本人が「重大な過失がある」として個人として賠償支払いを認められるケースも出てきたということを教師は知るべきだと思います。
     
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編集者の心に残った言葉

裁判官の判断では、学校教師が熱中症に対してとるべき対応を詳細に説明してくれています。



小学校で教員をしていた私の場合ですが、対象が年齢的に低いこともあり、少しぐらい大丈夫と思うこともなく、少しのことでも心配になり、すぐに養護教諭や同僚に相談していました。
中学や高校でも、生徒に異常があるときは、とにかく一人で判断せず同僚や養護教諭と共に対応すると、最悪の事態は避けられるのかもと思いました。
年に一回か二回は、教師・保護者・生徒が専門家と共に、判断の方法や事後対応の基本を学び、教師の力量に関わらない安全管理体制がとれるといいのではないでしょうか。

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by shin-pukupuku | 2017-09-12 13:23 | 教育関係 | Comments(0)