ぷくぷくの社会を見つめ直すⅢ

MMマガジン第10号

 MMマガジン第10号が掲載されました。今回も熱中症事故の判決書をもとに安全教育について考えてみようというものです。

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□■□ MM小学校教師用ニュースマガジン □2287□ 
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判決書事例で学ぶ安全教育 第10回~熱中症への教師対応の学びのために(2)~  
                       
1.はじめに

 先月は、休刊させていただきました。そのため、今月号は熱中症による学校事故への教師対応の2回目となります。
 熱中症に関わる裁判判決書は、部活動中のものが多いということは先月号でも説明しましたが、今回取り上げるのは中学校ラグビー部の熱中症事故です。
 小学校の教師からすると、部活動事故は切実感に欠けてしまうと思いますが、教師対応について学ぶべきところは多数あると考えられます。
 この事件では、中学校ラグビー部顧問であった教師Aが、適切な熱中症対策をとらなかったために、練習中に部員Bが熱中症を発症して死亡した事件です。前回のバスケットボール部の熱中症事件と同じような状況があります。

 いったい、学校教師は熱中症予防にどのような対応をとったらよいのでしょうか。
 神戸地方裁判所平成15年6月30日の判決書事例を取り上げます。

2.事件の概要
 事件当日は、午前6時30分から、Bを含むa中学校ラグビー部員18名が、教師Aの指導監督の下、同校グラウンドにおいて夏季早朝練習を開始した。当日の気象条件は、午前7時において気温29.2度、湿度62パーセントであった。午前6時40分ころ、ランニングパス3人組を始めた。ランニングパスを4本半(「1本」はグラウンド1往復を意味し、距離は片道約50ないし60メートルである。)終えたところで、被告Aは、全部員にキックダッシュ(最初にボールを蹴り、それを追いかけてキャッチし、ボールをパスしながらゴールまで走り抜ける練習で、被告Aの指示により随時実施される。)を指示した。1本目のキックダッシュ終了後、被告Aはさらに2本目を指示し、2本目終了後、残りのランニングパス5本半を行った。
 その後、部員Bがどのような症状になっていったのか、判決書からの記述を抜き出す。

 (ア)Bは、頭上に飛んできたボールを捕らえようと両手を挙げたが、「アー」という声を出して、そのまま後ろに尻餅をついた。
 (イ)Bは教師Aが指示した方向に走るものの、ボールを持つ走者を追わずに、まっすぐゴールに走った。
 (ウ)1本目のキックダッシュの際、Bは最後5メートルのラストスパートができなかった。
 (エ)2本目のキックダッシュではBがスタートのキックをしたが、ボールを蹴るときに足がもつれて蹴り損ね、ボールが転々と前に転がった。部員EはBの背中を押して走らせようとしたが、Bは押しても歩くより少し早いくらいの速度でしか走れなかった。ゴール後、Bは仰向けに倒れたので、教師Aは見学者に対してBを次の練習位置まで運ぶように指示し、他の部員にはキックダッシュの継続を指示した。
 (オ)教師Aは、仰向けに寝ているBを起こそうとしたが、手を離すと倒れてしまう状態であった。そこで、教師AはBを見学者にもたれかけさせて座らせ、自らは他の
部員の練習の指導をした。そのころ、Bは「アーアー」という声を発するようになっていた。
 (カ)午前8時ころ、教師Aは部員に休憩を指示し、Bのそばに行ったが、Bは「アーアー」という息づかいが変化して反応するだけの状態であった。見学者がBにお茶
を飲ませようとしても、Bは口を少し開いたままで口からこぼして飲めなかった。被告AがBの頬を叩くと、首を動かして被告Aの方を見たが、しばらくすると焦点の合わない状態に戻った。
 (キ)午前8時40分ころ、教師Aが再度、Bの様子を見に行ったところ、Bは上半身裸で水場に仰向けに寝かされている状態であった。Bは目を閉じたまま呼吸は 
「アーアー」と言うのみであった。教師Aは、Bの背中を起こし、膝を背筋にあて両肩に手を掛け、2回力を入れて伸ばしたが効果はなかった。その後、教師Aは、再度見学者にBの様子を見させた。その後、教師Aは、見学者に指示して、自力歩行できないBを水場に運ばせた。
 (ク)午前8時40分過ぎ、教師AがBを保健室に連れて行くよう指示し、午前9時1分、教師Aの報告を受けた他の教諭の指示で、校務員が119番通報した。
 (ケ)Bは、午前9時19分、救急車によって市内の病院に到着し、さらに、午前10時8分大阪府立救命救急センターに搬送され、午前10時27分同センターに到着
した。しかし、Bは、翌28日午後6時41分、同センターにおいて、熱射病による多臓器不全により死亡した

3.判決の内容

 判決結果は次の通りでした。なお、原告は亡き部員Bの保護者、被告は学校を設置する兵庫県内の○○市とラグビー部顧問の教師Aです。

 主文
 1被告○○市は、原告らそれぞれに対し、金2030万7709円及びこれに対する平成11年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 2原告らの被告○○市に対するその余の請求及び被告Aに対する請求をいずれも棄却する。
 3訴訟費用は、原告らに生じた費用の6分の1と被告○○市に生じた費用の3分の1を被告○○市の負担とし、原告ら及び被告○○市に生じたその余の費用と被告Aに生じた
 費用を原告らの負担とする。
 4この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

4.学校・教師の対応

 上記主文からわかるように、Bが、クラブ活動としてのラグビーの練習中に熱中症にり患して死亡した事故について、顧問教諭Aに安全配慮義務違反があったとされ、国家賠償責任が認められました。
 部員Bの練習中の状況を見て、教師はどの時点で熱中症を疑うべきだったのでしょうか。
 裁判官は次のように述べています。
 「Bは、本件事故当日、練習当初から体調の異常を示していたことが認められる。そして、遅くとも、3回目のキックダッシュの2本目終了時の午前7時30分ころには、Bは、自力で歩行することすらできず、体に力が入らずぐったりとした状態になり、呼吸も荒く、目も半開きの状態になるという明らかに異常な兆候を示していたのであるから、通常人の注意力をもってすればBの容態が悪いことは極めて容易に認識できたはずである。」
 つまり、上記「2.事件の概要」の(エ)の段階で、教師は熱中症の疑いを持つべきであったと述べているのです。
 さらに、「Bは、3回目のキックダッシュのころ、被告Aに対して、足先を指さし『先生、足が痛い。』と訴え、また、3回目のキックダッシュの2本目終了後、被告Aから胸ぐらをつかまれて引き起こされそうになったときにも、『嫌や。』などと普段は使わないぞんざいな言葉を発して顔を背けているのであるから、B自身、これらの言動を通して、体調が悪いことを被告Aに直接訴えていたことが認められる。」と述べています。

 このような状況にもかかわらず、教師AはBに対して次のような対応でした。
「Bが仮病を使って練習を怠けているものと頭から決めてかかり、ぐったりとなっているBに対し、『しんどいふりしてもあかんぞ。』『通用せんぞ。』『何でやろうとせんのや。』『14年間でこんなやつ見たことないぞ。』『演技は通用せん。』『ちゃんとせいよ。』などと筋違いな叱責、非難を繰り返し、Bの介抱を見学者に委ねたまま放置し」たのでした。

5.何を学ぶべきなのか。
 この事件の教師Aは熱心に部活動指導をしていました。朝早くから朝練習を行っているところからも、その熱心さがよくわかります。ところが、その熱心さが単なる根性論で終わってしまうと、このような児童生徒の生命を奪う指導になってしまうということを私たちは学ぶ必要があります。最近、「指導死」という言葉が話題になってきていますが、この事件の事例はまさしくその「指導死」であると私は確信します。
 やはり、教師は科学的な知識を常にリサーチする必要があります。この場合は、教師Aの熱中症についての明らかな知識不足でした。
 私たちは思い込みで日常的な指導を行っていることがよくあります。そのあたりは、内田良(名古屋大学)のエビデンスに基づいた学校教育における指導の大切さを述べる著書にたくさん記されています。
 それにしても、教師Aの頭の中にひょっとしたら熱中症かもしれないという想像性があったら、Bは命を落とすことはなかったことでしょう。非常に残念でなりません。私たち教師は、このような事例から教育指導の在り方を学ぶべきなのだと思います。

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編集者の心に残った言葉

教師Aの頭の中にひょっとしたら熱中症かもしれないという想像性があったら、Bは命を落とすことはなかったことでしょう。



今回も、読んでいて切なくなる事例です。
なぜ教師Aはおかしい、いつもとは違うと思わなかったのか・・・。
月に1度の先生の連載が、自らを戒めるいい機会になっています。

ただ教師Aの気持ちも少しわかります。
子どもたちの様子を見て、いつもとは違う危険な状態なのではないか、少し変な感じがすると思っても、「たいしたことではない」「特別なことではない」と思いたい気持ちが迅速な対応をとらせなかったことがあります。「すぐに問題は解決するはず」「そんな大変なことになるわけがない」という根拠のないただの願望から、何もしないまま事態を悪化させてしまいました。学級経営上の問題です。
「たいしたことはないはず」という思い込みを捨てる勇気が教師には必要です。



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by shin-pukupuku | 2017-11-16 10:29 | 教育関係 | Comments(0)

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