MMマガジン第11号 体罰問題

 判決書事例で学ぶ安全教育 第11回 
 ~体罰への教師対応の学びのために(1)~  
           
                   
1.はじめに

 今月からは、学校安全の問題として「体罰」をテーマにして教師対応を考えていきたいと思います。
 法務省が示す人権課題の一つには、「子ども」が位置付けられていますが、その中には「いじめ」や「体罰」「虐待」などが示されています。
 子どもの人権にとっては、学校教育の場における体罰の問題は依然大きな課題となっています。
 一方、大阪で起きた桜宮高校のバスケ部体罰事件をきっかけにして、部活動をはじめ、学校現場で体罰をなくそうという動きは加速化しています。
 30年前、私は先輩教師から生徒のたたき方を指南されたことがあります。そんな時代とは違い、現在では体罰と懲戒の違いも文部科学省によって例示され、現場からは次第に体罰をなくそうという動きは進んでいると思います。しかし、体罰をめぐる問題は、新聞記事などで相変わらず時々報道されています。
 今回は、自分のクラスの児童が、学内の他の教員や職員から体罰を受けた時に、担任としてどのような対応をしたらよいのかについて具体的に教えてくれる裁判事例です。

 みなさんは、他の教員や職員から自分の学級の児童が体罰を受けたと認知した時に、どのような対応をとっているでしょうか。同じ学内の教員や職員ゆえに、見て見ぬふりということはないでしょうか。特に、その児童が、明らかに悪い行為や言動を行っている事実を把握していると、何も言わないし、言えないこともあるのではないでしょうか。

 今回は、神戸地方裁判所平成25年9月26日判決の判決書事例を取り上げます。
 

2.事件の概要

 児童Aは、平成14年4月30日、体育館付近にいた技能員Cを見て、ゴリラと言った。 翌5月1日、A、Fを含む数名の3年4組の生徒が、技能員室にいたCに対し、同室の窓を開けて、「ゴリラ、ゴリラ」と大声で言い、また、Cとその場にいたもう一人の女性の技能員に対し、Fが「あっちがゴリラのオス」「こっちがゴリラのメス」などと言った。さらに、上記数名のうち女児の一人が、Cの様子を見て「ゴリラはそんなことはせん、ゴリラはこんなふうにするんやで」と言った。これを聞いた上記女性の技能員は、生徒らを注意した。Cは、自分だけでなく、女性の技能員に対しても上記のような言葉を発した児童らに対し、腹立たしさが募った。
 5月2日午前8時30分ころ、Aは、Cがゴミ出しのためゴミをゴミ捨て場に持ってくる姿を見て、Fに対し、ゴリラが来ている旨告げた。そして、Aは、F、女児のJ、男児のKと一緒に席を立って、教室後方のドア付近に集まった。担任Eは、そのころ、職員朝礼のため、教室にはいなかった。
 Kは、ゴミ捨て場に技能員Cがゴミ出しに来たのを見て、本件教室内から、「ゴリラが来た」と言った。
 ゴミ捨て場にいたCは、3年4組の教室から、閉まっていたドア越しに、Cをからかうような児童の声を聞いた。Cは、前日に児童にからかわれたこともあって、また自分のことをからかっていると思い、ゴミ出しを終えた後、すぐに、同教室後方ドアをバシッーと開けて、本件教室の中に入った。Jは席に着き、Fは教室前方に向かって逃げ、Aは後方ドア付近の窓ぎわまで移動して、壁を背にして立っていた。
 技能員Cは、「いつもゴリラ、ゴリラと言うな」「誰がゴリラや」と言って、Aの首を、右手の親指と人差し指を広げて押さえつけ、Aが泣きながら「ごめんなさい。ごめんなさい。」と繰り返し言うと、手を離した。CがAの首を押さえつけた際、Cの右手の指は、Aの耳たぶの後ろくらいにある顎の付け根(関節)付近まで届いていた。Aは、その場にしばらく立っていたが、その後席に着いた。
 Cは、また、自席近くまで戻って立っていたFの襟をつかんで離し、その拍子に、Fは尻餅をついた。Fは、Cに対し、「ごめんなさい。」と言って謝った。Cは、「謝って済むなら警察いらへん」と言った。そして、Cは、Fの横で、椅子を少し持ち上げ、ボーンと音を立てて下ろした。Cは、「他に言ったやつは誰や」と言うと、Fの隣りにいたKが「ごめんなさい。」と言って謝った。
 Cは、同日午前8時40分ころ、「3年生になったら、1、2年生のお手本やから、ギャーギャー騒いだらあかん。」「担任の先生に、ゴリラと言うて技能員さんに怒られたと言っといて。」と言って、本件教室を出た。
 特別支援員Dは、廊下で担任Eに会い、Eに対し、女児が技能員を冷やかし、胸ぐらをつかまれ、叱られ、泣いていることを伝えた。
 担任Eは、この日の午前8時47分ころ、本件教室に入り、「どうしたの、Aさん、Fさんまで泣いているやん。」「関係のある人こっちにおいで。」と言って、本件教室後方にいたA、F、K及びJを呼んだ。Aら4名は、おとといくらいからCにゴリラと言い、この日はCの目前では言っていないが、やはりゴリラと言って怒られたこと等を話した。これに対し、Eは、「自分は傷つけるつもりはなくても、知らず知らず人の心を傷つけることがあるんだね。これから気をつけようね」などと話し、その後、教室にいた児童全員に向かって、同様の話をした。
 その後、本件事件当日の午前9時30分ころ、3年4組では、屋外での社会学習が行われたが、Aはいつもの感じで笑って元気そうな様子であった。
 
 以上が、この判決書に記されている体罰の事実です。技能員Cは、児童数名から馬鹿にされ、それに対して教室に入って、首を絞めたというわけです。Aを含む3年生数名の技能員Cに対する言動は、指導されなければならないものです。しかし、体罰に及ぶ指導をCは行ってしまいました。そのことを担任のEは特別支援員から耳にします。
 もしみなさんがEであったらどのような対応をとるでしょうか。自分がとる対応を想像してみて下さい。


3.判決の内容と学校教師の対応

 判決結果は体罰を行った技能員Cの学校を設置する兵庫県○○市は、Aに対して損害賠償を支払うことになりました。(Aはその後約10日間の通院加療を要する頚部挫傷との診断を受けています)
 ところが、担任Eについては、安全配慮義務違反があったとは認められないと裁判所は判断しました。その理由について、判決書では次のような担任Eの対応を認めています。

 Eは、本件事故当日、事件発生後まもなく、廊下で会った特別支援員から、女児が技能員を冷やかし、胸倉をつかまれ、叱られて泣いていること等を聞き及び、すぐに、本件教室において、Aを含む関係児童らの話を聞き、同日午前10時30分ころには、校長に対し、「学級の子供が、技能員さんに胸ぐらをつかまれ叱られて泣いていた。」と報告し、校長から、当該児童の様子をよくみるよう指示を受けていること、Eは、同日、Aの両親に本件事件のことで連絡をしていないが、翌日には、校長、教頭、教育委員会の関係者を交え、話し合っていることが認められる。

 つまり、判決書では、担任Eが学級内で起こった体罰事件について、情報を把握し、子どもたちをなだめ、そして速やかに校長に報告連絡したことを評価しているのです。
 もし、児童たちが技能員Cに対してひどいことをしたことを理由に、体罰について校長に報告していなければ、このE先生もおそらく過失があったと認定されたことでしょう。学校では職場の人間関係以上に児童生徒たちの安全配慮の立場から、対応を求められていることになります。

 ところが、判決書では、担任Eの対応について苦言を呈しています。
 それは、原告Aの両親に本件事件の発生について速やかに連絡をしなかったこと、体罰を受けた児童らの及ぼされた恐怖等について、配慮に欠ける面があったことです。
 担任Eは当日家庭訪問があり、一日忙しい中にありました。おそらく、電話をかけることの必要性は持っていたかもしれません。その日のうちに被害児童の保護者へ事件の説明が必要だったのです。
 

4.何を学ぶべきなのか。
 
 生徒指導の事案はできるだけ速やかに対応することが大切であるとみなさんも聞くと思いますが、この裁判事例はそのことを具体的に教えてくれています。学級内や学校内で起こった事件や事故については、速やかに担当者および校長・教頭に報告することが求められていますが、まさしく「報告・連絡・相談」が組織的な対応の基盤になることを本判決を通して教師は学ぶことが出来ます。
 そして、校内で起こった体罰についても、同様に対応すべきなのです。校内で起こってしまった体罰については、同僚との人間関係から口をつぐんでしまう教師が多いと思います。そのことを校長や教頭に情報として伝えることは、ある意味、勇気が必要となることでしょう。これまでの裁判事例でも、体罰をめぐる事件の多くは、周囲の同僚教師の対応が児童生徒への人権侵害を深刻なものにしてきました。今回の事例は、体罰に対しては同僚職員同僚教師であっても速やかに報告相談すべきだということを教えてくれていると思います。みなさんは、実行できますか?

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編集者から

校内で起こってしまった体罰については、同僚との人間関係から口をつぐんでしまう教師が多いと思います。

現場で体罰を目にしたことはあまりないのですが、ある時、体罰が行われているのではと気になる教師がいました。しかし、現場を見ることはなく、ただ危惧するだけでした。ところがそうしているうちに、事件が起きてしまいました。そのクラスの保護者から、相談を受けたのです。明確な体罰でした。事前に防ぐことはできなかったのは後悔しています。
保護者から相談を受けた後は、慎重にですが、その子の立場に立って管理職や同僚と連携をとりながら、再発防止に努めました。年上の教師であったこと、現場は目撃していないことから、事前に動くことはできませんでした。危惧した時点で、できたかもしれないことをいくつか考えはしました。
・管理職に相談して配慮してもらう。
・研修担当や管理職に相談して、職員研修で意図的に体罰について取り上げる。
この件から後は、幸いなことに同じような事例に遭遇することはなく、事前に取り組む機会もありませんでした。

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by shin-pukupuku | 2017-12-14 15:02 | 教育関係 | Comments(0)

なにやら思いついたことをつれづれなるままにⅡ


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