MMマガジンの原稿今月号

 MMマガジンの今月号の原稿が掲載されましたので、紹介します。
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判決書事例で学ぶ安全教育 第15回 
 ~番外編 大川小学校津波被害の仙台高等裁判所判決を考える~  
        
                
1.はじめに

 4月26日に大川小学校津波被害に対する仙台高等裁判所による控訴審判決が出ました。 内容は、原告(被害者遺族の一部)による全面勝訴でした。
 この判決は、マスコミによって大きく報道されましたが、みなさんはどのようにこの判決を受け止めたでしょうか。私も石巻市の地元にある大学の教員ゆえに、この判決に注目していました。
 私の授業実践として、これまで毎年のように教員志望の学生を連れて大川小学校被災校舎跡を見学し、遺族の一人から説明を受けてきました。また、石巻市教育委員会の指導主事の先生方とも連携をとり、台湾からの安全教育の視察団の案内をしたこともあります。
 当事者意識を持って判決内容を読み、今回の各新聞社の有識者コメントを読みました。様々な専門家の考えを受け止めながら、そのコメントの内容と特色について分類分析してみようと思いました。その理由は、この判決をどのように考えたらよいのかについて、今回の判決に対する有識者コメントから学んでいくことは、今後の学校現場における安全教育のヒントになるのではないかと考えたからです。
 仙台高等裁判所平成30年4月26日判決に対する有識者コメントを今回は取り上げます。

2.事件と判決の概要

 大川小学校津波被害とは、東日本大震災の津波で小学生74人、教員10人の計84人が犠牲となった事件です。1審判決では、津波到達の7分前に教員らが津波到達を予見できたと指摘し、学校・教員らの責任が問われました。

 今回の高裁判決の概要から説明します。読売新聞がまとめた判決のポイントは次の通りです。

  ・石巻市と宮城県は原告29人に約14億3617万円を支払う。
  ・ハザードマップの予想津波浸水域外でも津波被害の危険性はあり、学校側は予見できた。
  ・危機管理マニュアルで避難場所を設定し、避難の経路や方法を記載しておけば、地震直後に避難が始められ、被災を回避できた。
  ・市教委は危機管理マニュアルの内容を点検し、指導すべきだった。

 第1審の仙台地裁判決と今回の第2審仙台高裁判決の違いはどのようなところにあったのでしょうか。
 毎日新聞は次のように整理しています。

・「津波の危険」を震災前に予見できたか-1審では、「震災前に河川堤防を越える津波被害は東北地方で発生しておらず、津波で児童が被災する危険は予見できなかった」という判断でしたが、2審では「北上川の堤防から200メートルしかない立地を考慮すると、校長らは震災前でも校舎周辺への津波襲来を予見できた」という予見可能性を認めた判断でした。
  ・震災前の学校や市の防災対応に過失はあったかー1審では、「学校が津波発生時の具体的な避難場所や手順をマニュアルに明記する義務があったとまではいえず、過失はなかった」という判断でしたが、2審では「学校は避難場所を『バッドの森』に定め、避難経路や避難方法を記載する義務があったのに怠った。市教委も是正指導をしなかった過失がある。」という事前防災に組織的な過失があったという判断でした。
  ・震災後、津波襲来までの教職員らの行動に過失はあったかー1審は「津波襲来の7分前には市の広報車が校舎前で高台避難を呼びかけたのに、教職員らはより標高の高い裏山への避難を怠った過失がある」という判断でしたが、2審では、震災前の学校、教職員の過失を認めたため、判断しませんでした。

3.各新聞に掲載された有識者コメントの内容の分類と分析
 2018年4月27日以後1週間の朝刊に掲載された有識者のコメントを拾い上げました。次の6紙の有識者の専門分野を示します。

 朝日新聞(防災教育)、読売新聞(安全教育学、民事法)、産経新聞(民法)、毎日新聞(民法、教育学)、南日本新聞(防災システム、教育学)河北新報(民法2人、災害情報学、教育学、教育行政学、教育法学)

 それぞれのコメントを分類・分析すると次のようなことがわかりました。
(1)教育学者と法学関係者では判決に対する評価が分かれています。教育学者は、現場の状況を踏まえて、今回の判決が現実的に不可能な部分があると述べています。その中で多いのが、教員の多忙化による問題と学校システム改革の必要性です。
 これに対して、法学関係者、および安全教育学、教育法学の専門家は、判決を高く評価しています。キーワードとしては、「高度な注意義務」「新しい判断の枠組み」などがあげられます。
 その違いはどこから生まれるのでしょうか。私が考えるには、その考察の出発点だと思います。教育学者は、教育現場の状況を踏まえています。法学関係者は、多数の死者を津波被害によって生み出してしまった過失責任を出発点だと考えています。

(2)具体的なコメントのキーワードを抽出すると、次のような内容に分類することができました。数字は有識者のコメントの数です。

  「高度な注意義務=9、新しい判断の枠組み=7、教育行政による条件整備=6、マニュアル見直し要請=6、現場の多忙化=5、組織的過失=4、学校システム改革=3、学校と地域との関連性=2、学校保健安全法を踏まえた判決=2、現場の受け止め方=1、市民の日常的な防災意識=1、地裁判決への指摘=1、防災教育の位置づけ=1」
 
 上記の分類から、「高度な注意義務」「新しい判断の枠組み」「組織的過失」「学校保健安全法を踏まえた判決」については、2審判決の特色についての内容が示されています。
 それ以外のキーワードは、判決を受けて、どのような取組が今後要請されているかが、示されていると思われます。「教育行政による条件整備」「マニュアルの見直し」「学校システム改革」「市民の日常的な防災意識」などが今後要請されると指摘しています。 
 
 
4.何を学ぶべきなのか。
 
 私たちは教員ですので、どうしても現場の視点で教育問題をとらえがちです。ところが、大川小学校の津波被害を法的視点からとらえる法学関係者は、当然のことですが、現場とは違った異次元の見方を一見しているように思われます。それは教育学者と法学関係者とのこの判決に対する評価の違いから浮き彫りになっています。
 しかし、どちらが間違っているというレベルの問題ではないと私は思います。現場の教員には、教育の視点には強いですが、法的な視点が不十分であることを示していると思います。つまり、両方の見方ができるような教員が求められていると考えます。
 この判決で示された「学校保健安全法」は、2009年に学校保健法が改正されて、施行されていました。その3章には、学校安全がきちんと位置付けられ、第27条には、学校安全計画の策定が位置付けられています。東日本大震災の2年前にはすでにこの法律が適用され、学校は教育委員会指導のもとで、計画を立てていなければならなかったのです。それにもかかわらず、災害時のマニュアルは杜撰なものであったことを悲劇が物語っているのです。
 私たちは現場の教員としてそのことを果たして理解していたでしょうか。
 たしかに、多忙化の中にある教育現場では、そのような法律改正についてきちんと把握する余裕はありません。それは中学校の現場にいた私にもよくわかります。私も2008年には現場にいましたが、まったく法律改正について理解していませんでした。しかし、震災がおこり津波被害があってから、初めてそのことを理解したわけです。

 私は、現場の教員にとって大きく欠けているのが、この法的視点だと思っています。校長や教頭はもちろんのこと、一般の教員も法的視点をより一層持つべきなのです。いじめ問題にしろ、学校事故にしろ、法的視点をきちんと理解すれば、教員はどのような態度や行動をとるべきなのかが見えてくるのです。安全教育においても、この法的視点を今後より一層学んでいく必要があります。少なくとも今回の判決書を読むことは教員として必要不可欠だと私は思います。

 今回の判決は、学校や教員にそのことを強く諭していると私は確信しています。

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編集者の心に残った言葉
 私は、現場の教員にとって大きく欠けているのが、この法的視点だと思っています。校長や教頭はもちろんのこと、一般の教員も法的視点をより一層持つべきなのです。

 私も法律には疎く、小学校教諭時代、新福先生の言われる法律的な視点をほとんど持っていませんでした。今も十分持ってるとは言えません。しかし、校内研修でも教育に関係のある法律を学ぶ機会はほぼなかったように思います。一般の教員も法的視点をより一層持つことができるように、年に一度は校内研修で法律関係の研修を行う必要があるのではないでしょうか。

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by shin-pukupuku | 2018-05-14 09:42 | 教育関係 | Comments(0)

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